ベトナムで実現した開校式、そして新しい教育プログラム
2021年春、ベトナムから嬉しいニュースが届きました。トゥエンクアン省ソンズオン郡で建設が進められていたタンタイン1小学校の校舎とレインボーライブラリー(図書館)が完成したのです。4月14日には小学校の開校式とレインボーライブラリーの開所式が行われました。
式典は生徒による校歌の合唱とダンスで始まりました。この校歌のメロディーは、タンタイン1校のドナーである株式会社サイサンからのプレゼント。同社の社歌がベースになっています。ソンズオン群のChildren Culture Houseの音楽プロデューサーが歌詞を創作し、タンタイン1小の先生がダンスの振り付けを考えました。みんなで作った校歌の合唱に、サイサン社のベトナム駐在員*のお二人が加わって、最後はベトナム語の校歌と日本語の社歌の合唱となりました。(*ベトナムにあるサイサン社のグループ会社「ガスワングループ」に日本のサイサン社から派遣されている)
開校式の交流会では駐在員のお二人を含めたゲストが生徒たちと一緒にベトナム英雄の物語を演じ、踊りを披露。他にもバンブーダンス、綱引き、寄せ書きづくりなど、生徒とゲストが一緒に楽しめる企画が盛りだくさんの、楽しいイベントとなりました。
タンタイン1小のプロジェクトは、サイサン社75周年記念事業として支援していただいたものです。サイサン社駐在員の方は開校式に参加するだけでなく、着工式での鍬入れから開校式の準備まで同校の建設をずっと見守り、寄り添ってくださいました。AEFAが現地に渡航できない状況が続く中でも同校の開校式・開所式の開催が実現したことは、今後の活動に向けた希望の力になっています。
今年6月時点で、ベトナム現地で開校式を開催できたのはタンタイン1校のみですが、ベトナムにおけるAEFAの学校建設事業そのものは順調に進んでいます。また、ベトナムではソフト支援も充実してきています。AEFAでは昨年からコロナ禍をひとつの機会ととらえてベトナム支援の方向性を見直してきました。その結果がソフト支援の充実につながっています。レインボーライブラリーを通じた読書習慣啓蒙活動は10校に広がり、更に4校で建設中です。
このほか、科学技術教育プログラム「STEM (Science, Technology, Engineering, Math)」、Child Education、オーガニックガーデンなどの新しいプログラムが形となりつつあります。STEMプログラムは今年に入って大きく進展し、AEFA支援校であるバグザン省ニンソン小学校のカオロイ分校で活動開始となりました。これはAEFA初の試みでもあります。
STEMの目的は科学技術に触れる機会の少ない少数民族の子どもたちに科学や技術の面白さを伝えることです。それと同時に、受動的になりがちな少数民族の子どもたちが自ら科学や技術を学び、世界を広げ、科学技術系の進路への興味や学習意欲を持つように助けることも目指しています。このため、科学技術の知識と、子どもたちの自主性を育てる教育メソッドを身につけた教師育成が不可欠です。そこで、カオロイ分校の教師へのアンケートやインタビュー調査の結果に基づいて教師向けトレーニングコースを開発・実施し、のべ87名の教師が受講しました。4月には「STEMハウス」と呼ばれる活動拠点が完成。いよいよ子どもたちへの模擬授業が始まりました。
STEMハウスは、実験器具や科学技術に関する本を備えたプログラム活動室。ハウスの外壁にも内側にも絵が描かれており、見るだけで楽しい気持ちになります。学校の理科室とは異なる、ワクワクする体験ができる場所として、子どもたちの創造力を刺激するような絵が描かれているのです。模擬授業も、子どもたちが身近なものから楽しく学べる工夫が凝らされています。
たとえば5年生のプログラムは、子どもたちがフルーツジュースを作る実験を行い、水が砂糖や塩、フルーツなど、さまざまな物質を溶かす性質を持つことを学ぶというもの。さらに、洪水のビデオを見て水の持つ大きな力を学ぶなど、子どもたちの視点を広げることも重視されています。また、子どもたちが学んだことを実験ノートにまとめて発表するというプロセスを組み込むなど、能動的な姿勢を育てることにも配慮しています。
STEMの学習リーダーとして選抜された生徒たち25名による「STEMクラブ」も活動を開始しました。これは、教師やSTEM専門家の支援は最小限にして子どもたちの自発的な活動を促すもので、4月度の活動テーマは「自然」、題材は「豆の発芽と栽培」。STEMクラブのメンバーは豆の発芽のプロセスや栽培方法について本やビデオを使って自分で学習し、そこから得た知識をもとに実際に豆を発芽させることに成功しました。メンバーたちは「大きく育てて豆を収穫するのが楽しみ!」と栽培を続けています。
カオロイ分校のSTEMプログラムは模擬授業の段階、つまり、正規の授業が完成する前の段階ではありますが、教師たちはSTEM専門家から学んだ教授法を授業のカリキュラムに取り入れつつあり、生徒たちも科学技術を学ぶこと、自ら学び自ら考えることの楽しさを知りつつあります。AEFAとしても手応えを感じており、STEMプログラムの広がりが期待されます。
多くの「できないこと」に直面するコロナ禍において、これらの事業成果をあげることができたのは大きな喜びでした。同時に、現地の力をあらためて感じました。タンタイン1小学校の開校式・開所式の企画はほぼ全て現地NGOと学校とで準備したものです。AEFAが通常依頼しているイベント内容に留まらず、自分たちのできるベストの企画、ベストの行動で、参加者全員が笑顔になるイベントとなりました。現地の人々の感謝の気持ちを表現する心意気と行動力に、AEFAとしても学ぶことが大きかったと感じています。
ベトナム現地のNGOは、コロナ禍の中で活動を継続する方法を模索しながら前進しており、AEFAのプロジェクトが止まることはありません。その一方で、現地に行けない状況では実施が困難なこともあり、AEFAもまたこれらの問題にどう対処するかを模索しながら前進しています。たとえば「フィールドトリップ(現地視察)」の見直しです。
フィールドトリップは、村の人々や普段Eメールでしかやりとりのない現地NGOメンバーに直接会える貴重な機会です。移動の車中や食事の前後など、さまざまなチャンスをとらえて現地の人々の話を聞き、現地の要求や困りごとを理解します。これを充分に行うことで、それ以降のプロセス —ドナーのマッチングからプロジェクト完了まで— におけるボタンの掛け違えを防ぎ、関係者すべてのニーズに応えるプロジェクトの実現が可能になります。AEFAでは今、渡航困難な状況下でフィールドトリップの目的を果たすための新しい方法を探っています。
限られた環境や条件の中で、プロジェクトをどう実現していくか。この難問に立ち向かうための力をくれるのはやはり、子どもたちの笑顔です。学びの喜びを知った瞳の輝きです。
新しい学校、図書館、そして新しい教育プログラムが、この時代を生き抜くたくましさを子どもたちに与えてくれることを願いつつ、AEFAも現地NGO、ドナーや会員の皆様とともに、今だからこそできること/考えられることに力強く邁進します。